開業への想い

子供の頃、勉強も運動も得意ではありませんでした。
ただ、母の料理の手伝いをして褒めてもらうことが嬉しかったものです。
子供心に「人に喜んでもらいたい」と思うようになり、
中学生の頃には料理人を志していました。

高校を卒業する1980年代は、ヌーベル・キュイジーヌ全盛のフレンチに憧れ、
調理師専門学校に進むことに決めました。
その時、決して裕福でなかった父は、私を銀行に連れて行って入学金を手渡してくれ
「料理の道を進んで極めるも、また外れるも、お前の人生だ」と言いました。
心に染みる父の言葉を、決して忘れたことはありません。

専門学校で学んだ後も、その専門学校の助手を二年間務めながら勉強し、
さらに懐石料理店からリゾートレストラン、ホテルなどで修行して、
さまざまなことを学んでまいりました。
レストランやバーなどの新店のプロデュースも多数、手がけさせていただきました。
そして結婚し、子供が二歳になる頃に「自分の店を持ちたい」と考え、
平成七年暮れに『せき根』をオープンいたしました。

早いもので、それから二十九年が経ちます。
この間、宣伝などは一切いたしませんでしたが、
ありがたいことに二十九年間、毎月ご来店されるお客様も何組かおみえになります。
そんなお客様方と向き合いながら、
つねに「何を求めておられるのか?」を考え、
新たな創造の試みを続けてまいりました。

今も自問し、挑戦する毎日ではございますが、
「美味しい料理をお出しする」との根源は不変でございます。
単に高価な食材をそろえるのでなく、
たとえば「普通の大根を美味しく炊いてお出しする」ために、
出汁から器まで「手間をかける」ことを惜しまず精進を重ねる……
これが、せき根が考え、実践する理念と自負いたします。

さらに言えば、子供の頃に母の料理を手伝い、母の喜ぶ顔を見たこと。
そして、調理師学校に進む際に、入学金を手渡してくれた父の言葉。
こうした原体験が、せき根の理念の根源を成す「真理」でございます。

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