三十周年を迎えて

三十周年を迎えて
~ 趁無窮(むきゅうをおう)~

おかげさまで、令和七年の暮れに、せき根は開業三十周年を迎えました。

時代が平成から令和へと移り変わる頃、ありがたいことにミシュランガイドの二つ星を頂戴いたしました。

ところが、程なくしてコロナ禍という未曽有の事態が到来し、食を取り巻く世界も静かに、しかし確実に変わっていきました。

さらに気候変動や農業・漁業などの担い手減少により、納得のいく食材を手にすることが、以前とは比べものにならないほど難しくなりました。

毎朝市場に足を運ぶのみならず、各地の生産者と直に向き合いながら、素材の持ち味に耳を澄ませ、料理としてどう引き出し、どうお届けするかという姿勢を大切に日々精進しております。

島根の足立美術館を訪れ、横山大観の座右の銘『趁無窮』の墨書に触れたのは、ちょうどそんな時でした。これは大観の師である岡倉天心が掲げた「一切の藝術は無窮を趁(お)ふの姿に他ならず」という、永遠に完成しない芸術の道を見事に体現したものであり、それはまさしく、料理の道にも通ずるものだと実感しました。

三十年という月日の中で、料理の引き出しは自然と増え、少しずつ深まりながら、かたちを変えてきたように思いますが、これからも心静かに、真摯に、料理と向き合い続けてまいります。今後ともよろしくお願い申しあげます。

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